口蓋裂の手術は
- 裂を閉じる
- のどの後の壁に軟口蓋を届かせる
- 軟口蓋の筋肉がしっかり動くようにつなぐ
を目的に行われます。以上を達成することにより飲食物の鼻漏れを防ぎ、構音時や嚥下時の鼻咽腔閉鎖を可能とさせます。
ただ裂を縫いよせただけではのどの後ろの壁に届かないことが多く、また口蓋裂の場合、軟口蓋の筋肉の走行が正常の状態より斜めに走っているためそれをはずして、より正常に近い状態につなぐことで閉鎖機能を獲得できるようになります。筋肉の量が少ない症例ではその分しっかり後ろに下げることで閉鎖出来るようにしなくてはいけません。
手術時期はおおむね1歳2ヶ月頃のそろそろ言葉を喋りそうな時期に行っています。体重はあまり手術時期を決める要素にはなりません。健康であれば7キロ台でも手術をしています。
手術方法は大きく分けて硬口蓋から後へ下げるプッシュバック法(以下P法)、と軟口蓋だけで処理をするFurlow法(以下F法)の2種類に分かれます。それぞれの手術法は一長一短がありどちらが良い悪いと一概には言えませんが、顎発育に関してはF法に、鼻咽腔閉鎖に関してはP法に軍配があがります。我々は両方の手術を使い分けています。軟口蓋の筋肉がしっかりしていて裂幅のそれほど広くない症例ではF法で、それ以外の症例ではP法で行っています。2008年の口蓋裂学会でも日本での口蓋裂手術の比率がP法とF法で8:2との報告がありましたが我々の施設内での手術比率もほぼ同様です。
P.S
口蓋裂の説明をされているいくつかのホームページを拝見しますと、F法を行われている施設はそれがP法よりすばらしい手術であるかのように説明されているものがほとんどです。我々の経験によれば、症例を選べばF法は効果的ですが、裂の広い場合後ろに下がりにくい場合があり、鼻咽腔が軽度閉鎖不全になりやすいという印象を持っています。逆にP法は顎の成長を阻害するということが声高に言われていますが、硬口蓋前方部のはがす量を減らすことであまり劣成長をするという印象を感じていません。むしろ劣成長と思われている場合は最初から顎、口蓋が裂のために絶対的な組織量が不足しているときに起きやすいと感じております。以上から我々は顎のバランスよりも鼻咽腔への配慮が最優先と感じ、この数年はP法の比率があがっています。顎の数ミリの前後差よりも鼻漏れしない構音を獲得する方が、学生生活、社会人生活を送る上では優先課題と考えております。また口蓋床や矯正の技術の発達のおかげであまり顎の劣成長が中学、高校まで目立つことがほとんどなくなってきており、そのことからもP法の不都合をあまり感じなくなっています。 |
裂がワイドな症例では多くの場合、手術前に口蓋床を装着して頂き口蓋の形状を手術しやすいかたちに整えてから手術を施行しています。また口蓋床を長期に装着していただいた方が裂の幅も狭くなります。
顎裂を伴う完全硬軟口蓋裂 |
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顎裂を伴う硬軟口蓋裂ではP法で手術を行いますが、多くの場合、初回手術において顎裂部に瘻孔が生じないように硬口蓋粘骨膜の一部を翻転させ、閉鎖しています。顎裂部の骨移植は別途後日必要ですが、この手術を行うことで幼少時期の飲食物の鼻漏れが無くなります。幼稚園、学校で牛乳などが鼻から出てくるのを気にしなくてよくなります。
幅の広い硬軟口蓋裂 |
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ワイドな軟口蓋裂や硬軟口蓋裂ではP法で手術していることが多いですが硬口蓋の剥がす範囲は少なめにしています。
幅の狭い硬軟口蓋裂 |
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ワイドではない軟口蓋裂で筋肉量が普通にある症例ではF法で手術しています。硬口蓋をさわらないので、術後はP法より2,3日早めの退院となります。粘膜下口蓋裂や深咽頭の子供さんにこの手術をすると、鼻咽腔閉鎖不全になりやすいので術前に適応を選ぶ必要があります。
術後はしっかり縫合部が閉鎖し、粘膜が張るのを確認した後、ストローなどを練習してもらいます。それと平行して言語聴覚士による評価を定期的に行っていき、必要が生じた場合は構音訓練を行います。 |