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広島口唇裂口蓋裂研究会

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はじめに

出生した赤ちゃんに問題がある場合、生まれた後にその子とご両親にかかわるのは「新生児科医(未熟児の赤ちゃんや病気の赤ちゃんを主に診察する医師)や小児科医」です。
口唇口蓋裂の赤ちゃんは、日本人では500〜700人に1人の割合で出生すると言われています。
 

口唇口蓋裂は単独で生ずる場合と他の病気の合併症としてみられる場合があります。
口唇口蓋裂のみが単独で見られる場合は、新生児期には主に哺乳が問題となりますが、ほとんどのお子さんはしっかりした治療を受けることによって成長・発達に異常を生じることなく順調に成長します。
他の病気(染色体異常や特殊な症候群)の合併症としてみられる場合には、哺乳のみでなく、呼吸や循環、将来的な発達など様々な問題が生じる可能性があります。
生まれた赤ちゃんに口唇口蓋裂がみられた場合には、口唇口蓋裂以外の他の異常がないか、一度、小児科や新生児科医の診察を受けることが必要です。
 
また、口唇口蓋裂では美的な問題点以外にも、将来的に言語、歯並び、中耳炎などの耳の病気など多岐の問題が生ずる可能性があるため、形成外科のみならず、これらの問題に対し、小児科、耳鼻科、歯科医、さらに、言語治療師やケースワーカーなどがチームで取り組むことが大切です。出生した直後から成人に至るまでの一貫した治療が求められ、その第一歩を新生児科医が担っています。

 

口唇口蓋裂の赤ちゃんを出産されたご両親へ

生まれてすぐの赤ちゃんとお母さんの触れ合いはお母さんにとってのみでなく、赤ちゃんにとっても大きなメリットがあります。ショックを心配して、生まれてすぐお母さんに会わせることをためらう医療スタッフもありますが、冷静に温かくお母さんに真実を伝えることができれば、ご両親は少しずつ赤ちゃんの誕生を喜び、現実を受け止めることができると考えています。
また、赤ちゃんが退院するまで(または他の病院で出生されて外来を受診される時)に、口唇口蓋裂以外の問題がないかを十分に診察し、形成外科の医師とともに将来的な治療の見通しや問題点について話し合うことが必要であると考えています。
 

哺乳の問題

口蓋裂、特に口唇裂と口蓋裂が同時にある場合には、口を閉じることが難しいため、赤ちゃんがお乳を飲むのに必要な口の内の陰圧を作ることができにくく、空気を飲み込むことが多くなり、せっかく飲んだお乳を吐いてしまうことがよくあります。
授乳中は途中で休憩しながらゲップをしっかり出させることが大切です。お乳が鼻の中に流れ込んで、赤ちゃんがむせて咳込んだり、また、長時間の授乳で赤ちゃんが疲れてしまうこともあります。お母さんのおっぱいを直接吸わせる時には、横からおっぱいをCホールドで支えたり、下からUホールドで支えると吸いやすくなります。
また、お母さんの親指と人差し指で赤ちゃんの頬を下から支え、下顎を圧迫しながら吸う力を助けることも役立つと思われます。
おっぱいからの直接の授乳が難しい場合には、搾った母乳を専用の乳首のついた哺乳瓶で飲ませます。それでも、十分な量が飲めないときには経管栄養 (細いチューブを胃の中まで入れて飲めない残りの母乳を注射器で入れてあげること) が必要になることもあります。
最初は上手におっぱいを吸えなくても、赤ちゃんを裸の胸に抱いて、ゆっくりとしたひと時を過ごすことは、授乳以上に大切なことであると思います。
口唇口蓋裂用乳首についてこちらから。

 

口唇口蓋裂に伴う他の異常

口唇口蓋裂に他の内臓の異常がともなったり、口唇口蓋裂が染色体異常や特殊な症候群など他の病気の症状の一つとしてみられる場合があります。
口唇口蓋裂赤ちゃんによくみられる他の異常としては、

  1. 心臓の病気 (心室中隔欠損など)
  2. 耳介の異常 (副耳、小耳症、耳瘻孔など)
  3. 四肢の異常 (多指症、合指症など)

などがみられます。口唇裂のみの場合は比較的これらの異常は少なく、口蓋裂の場合にこれらの異常が多い傾向にあります。耳介や四肢の異常は見てわかりますが、心臓の病気の場合には、生まれた直後には症状がないことも多いので、赤ちゃんの専門の医師の診察を受け、必要であれば心臓の超音波検査を受けておくと安心です。

 

口唇口蓋裂を伴う主な症候群や染色体異常

口唇口蓋裂を伴う症候群にはさまざまなものがありますが、多いものとして、次のような症候群があります。

 

1. Pierre Robin (ピエール・ロバン)症候群

最初に報告したピエール・ロバン氏の名前からピエール・ロバン症候群とよばれています。下顎が小さく引っ込んでいます。そのため、舌根が沈下し気道を閉塞し、その結果、吸気性の呼吸困難が生まれた時からみられます。また、円形の軟口蓋裂がみられます。呼吸困難の程度は様々ですが、チアノーゼや気道の閉塞症状が強い場合には、エアウエイ (空気の通り道を作る) や場合によっては気管内挿管(気管に管を入れて空気の通り道を作ること)が必要になります。また、気道の閉塞症状のために哺乳が困難な赤ちゃんが多いので、経管栄養が必要になります。心房中隔欠損、心室中隔欠損、動脈管開存などの心臓の病気を合併していることもあります。この病気の赤ちゃんは生まれた直後の呼吸の管理が最も大切で適切な処置が行われれば、予後は比較的良好と言われています。多くの場合発育に伴って下顎が発達し、学齢期には普通のお子さんと変わりのない成長を遂げることが多いと言われています。
 

2. Treacher Collins症候群

鰓弓(さいきゅう)は、将来顔や頚部のさまざまな器官を作るもとになるもので、妊娠4週初め頃の胎児にできてきます。このうち第1鰓弓の発達障害によっておこる病気がTreacher Collins症候群です。おもに、頬や下顎の骨と筋肉の低形成、眼瞼裂斜下(たれ目)、下睫毛の部分的な欠損がみられます。また、口蓋裂を伴うことがあります。耳介の変形は一部(耳珠側)に限られます。
新生児期には下顎の低形成のために気道の閉塞症状がみられることがあります。呼吸困難の程度は様々ですが、チアノーゼが強い場合には、エアウエイや場合によっては気管内挿管が必要になります。また、哺乳が困難な赤ちゃんが多いので経管栄養が必要になります。時に心臓に異常がみられることがあります。この病気の赤ちゃんは生まれた直後の呼吸と栄養の管理が最も大切です。
将来的な知能の発達はほとんどのお子さんで正常と言われています。外耳道の閉鎖に基づく伝音性の難聴がみられることがあり、難聴のために二次的に言葉などの発達の遅れを生じることがありますので、新生児期に聴力のスクリーニング検査を受け、6月までに聴力検査を受けることが大切です。必要であれば補聴器をつけることが発達を促すのに大切です。
口蓋裂や顔の形成術など、将来的な治療の見通しや起こりうる問題点について専門の形成外科医と話し合っておくことが大切です。

 

3. Goldenhar症候群

第1、第2鰓弓の発達障害によっておこる顔面や耳介の異常と眼球結膜に見られる類上皮種や脂肪類皮腫、脊柱 (主に頸椎) の異常を伴う病気を最初に報告した人の名前をとってGoldenhar症候群と呼んでいます。また第1、第2鰓弓症候群と呼ばれることもあります。
顔面や耳介の異常は片側のみに強く認めることが多く、異常を認める側の上顎骨・下顎骨、頬骨(特に下顎骨関節突起 )が低形成であるために顔面が非対称になります。また、異常を認める側の口角に裂めが認められ(巨口と呼ばれます)、口角と耳珠を結ぶ線上に皮膚の隆起やくぼみを認めます。耳介の変形の程度は個人差がありますが、多くは小耳症となります。
頸椎では片側の頸椎の完全、または部分的な欠損や低形成が認められることがあります。口唇口蓋裂の合併や心臓に異常がみられることがあります。
Treacher Collins症候群と同様に将来的な知能の発達はほとんどのお子さんで正常と言われており、難聴による発達の遅れを起こさないよう必要であれば補聴器をつけることが発達を促すのに大切です。
口蓋裂や顔の形成術など、将来的な治療の見通しや起こりうる問題点について専門の形成外科医と話し合っておくことが大切です。

 

4. 口唇口蓋裂を伴う染色体異常

口唇口蓋裂が合併する染色体異常で、多いものは13、18トリソミー(13番目や18番目の染色体の数が1本多い)です。そのほか21トリソミー(21番目の染色体の数が1本多い)や22q11.2欠失症候群(22番目の染色体の長腕の一部が欠けている)でも口唇口蓋裂がみられることがあります。
これらの染色体の異常は。赤ちゃんの診察所見から推定でき、最終的には血液検査で診断することができます。口唇口蓋裂以外に心臓に病気を持っていることが多く、また、消化管に異常があることもあります。染色体異常の種類によっては生命予後がよくなかったり、発達に遅れがみられます。
小児科や新生児科医の診察を受け、レントゲン検査、超音波検査などを行うことが必要です。また、ご両親の了解が得られれば、染色体の異常があるかどうか血液検査で調べることができます。これらの種々の検査によって、将来的な見通しや起こりうる問題点を明らかにすることができ、ご両親と赤ちゃんの治療方針や問題点を話し合っていくことができます。

 

おわりに

口唇口蓋裂の治療にはご両親を含めたチーム医療が大切です。
赤ちゃんに口唇口蓋裂を認めた場合、生まれた直後ご両親はショックを受けられるかもしれません。哺乳や呼吸に問題がなく元気であれば、産院を退院した後に新生児科医や小児科医の診察を受けることをお薦めします。