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広島口唇裂口蓋裂研究会

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口唇裂の手術

出生時の体重や他の疾患の有無などにより若干の差はありますが、おおむね生後3ヶ月頃に口唇裂の手術をしています。口唇裂手術においては、口の周りを通っている口輪筋という筋肉をしっかりつなぎあわせること、口唇の形を左右対称にすること、鼻の形を左右対称にして自然な高さ、形にすること、などを目指して行われます。体重に関しては4キロ台で手術をすることは少ないですが、健康であれば5キロ前後の体重のお子さんでも手術をしています。顎裂や口蓋裂を伴っている場合、歯ぐきや上あごの位置が左右非対称になっていたり、とても離れていることがあります。そのような場合は口蓋床である程度、歯ぐきの並びを整えてから手術をします。最初の手術では微妙に非対称な部分が残ったりしますのでおおむね9割程度が治り、あとの1割は後日の修正で治す、ぐらいにお考えください。また両側唇裂で鼻柱の低い場合は後日に治す部分が少々多くなりますので最初の手術で7割程度が治るとお考えください。

 

■片側唇裂

見た目の上で、機能の上で、できるだけ左右対称になることを目指します。赤唇の境界部分の曲線ラインを自然な形に出すこと、鼻柱を真ん中に持ってくること、人中を左右対称にすること、小鼻の丸い感じを左右対称にすることなどがポイントです。

片側完全唇裂の基本デザイン


丹下法に準じてそれを発展させた術式
ミラード+三角弁+赤唇三角弁+翻転弁+鼻孔部切開


鼻の変形が強い場合は鼻修正を追加しています。唇裂鼻修正の場合、レチナという鼻への挿入物を長期間使用する施設が多いですが、我々はあえて使わないで治療しています(使う必要性を現時点では感じておりません)。
顎裂が広く段差のある唇裂では、そちら側の小鼻が沈み込んだり流れた感じになります。その際多くの場合、早期から口蓋床で顎の位置誘導を行います。歯ぐきおよび口蓋が寄ってくると口唇裂手術そのものがやりやすくなり、結果も良くなります。
ただし口蓋床による2,3ヶ月間の矯正だけでは改善しても、完全に歯ぐきの位置を左右対称までは持っていくのが難しく、それは後日の骨移植を含めた顎矯正まで待つことになります。それ故、小鼻の流れや沈み込みは土台の骨格が左右対称になっていないと、最初の生後3ヶ月時の手術ではなかなか完全に治せるものではありません。この場合は後日の矯正を含めた修正を待つことになります。

その一方で、鼻や耳の軟骨は生後3,4ヶ月までは矯正によって形を変えることができます。最初平べったい状態の小鼻も生後3ヶ月頃に手術すると、軟骨そのものに糸をかけなくてもまるい形を再現することができます。ところが生後5,6ヶ月頃からは軟骨が急にかたくなってきて、一旦ついた形のくせはなかなか治らなくなります。そのため歯ぐきが口蓋床でひっつかなくても多くの場合は生後3ヶ月頃に口唇手術を行い、鼻の左右差の激しい症例ではそのときに鼻の軟骨周囲の剥離を追加しています。

赤唇三角弁


Noordhoffが報告した三角弁
<PRS73,1984>
赤唇の皮膚粘膜境界のずれをなくす
真ん中の組織不足を補う効果がある
当科では2000年から取り入れている


赤唇は表側の色の薄い皮膚部分と中側の色の濃い粘膜部分に分かれます。この赤唇の皮膚粘膜の境界部分は普通に裂の左と右を縫い合わせた場合は、ずれることがほとんどですが、我々は2000年から赤唇三角弁を作ってこのラインがずれないように心がけています。また通常、赤唇の裂の左右を単純に寄せると真ん中が少し凹むことが多いのですが、この赤唇弁を入れることでその凹みも防ぐことができます。我々はこの手技をほぼルチーンに行っております。

その他、白唇部には左右対称に鼻から赤唇に人中稜という高まりが二本平行にありますが、この人中稜の高まりを作るのはかなり難しいものがあります。完全裂ではまだ厳しいのですが、修正例や不全唇裂では我々独自の方法にて好結果を出しています。

片側不全唇裂初回手術について

唇裂は大きく分けて不全唇裂と完全唇裂に分かれます。完全唇裂の多くは組織の部分欠損の状態であり、逆に不全唇裂の多くははただの癒合不全で組織は足りている、もしくは余っている状態にある、という風に我々は考え、それをもとに手術術式を選択しております。特に不全唇裂では人中稜に相当する高まり部位は外側に残っておりそれをうまく適正位置に持ってくることで左右対称の人中を再建できると考えて手術をしています。そうすることでおのずと口輪筋の走行も左右対称に近くなり、イー、ウーの口をしても対称性が維持されます。以下にその当科オリジナルの手術方法を解説いたします。

 

当科での考え方

人中稜は正中から直線的にあがってるく部分と外側からふんわりとあがってくる部分が交わる場所であり、決して内外から対称性に交わるわけではない。
ま稜そのものもとんがっているものではなく、人中窩から直線的にあがった後、2〜3mmの距離をかけて平坦になり(・・・・部分)、そこからなだらかに円弧を描きながらおりていく形態をとる。
2〜3mm幅の平坦な部分ならびにそこからおりていく形はなかなかつくれるものではない。この平坦な高まり部分(我々はその部分を<鼻根>と呼んでいる)を患側から見つけ出し、その形を損なわないように縫合していくことになる。


手術デザインI

  • 基本的にはrotaion advancent法で小三角弁とNoordhoff三角を挿入した形
  • 尾根のライン(A)と、尾根の入り込むライン(B)を決める。
  • ab間の距離が短い場合は切開するラインを湾曲させて長さをかせぐことになるがそれに合わせてa'b'も湾曲させる。
  • 鼻腔内はトリミングで時に楔状に切除、逆に大きめのMillardのc-flapを作成し挿入する事もある。


  • かなり外側遠くから寄せてくる場合は鼻孔底は健側より少し広めにデザインする。症例では全く組織切除していない。
  • 患側は上下方向にも余っていることが多いため直線法での手術は難しいことが多い。
  • 鼻翼基部下の発毛のない三角部分()を最終的に対象になるよう意識する。

 
 

手術デザインII

  • 健側の人中稜が高い場合a'b'ラインを内に凸にすることで組織量をかせぐ。
  • 鼻柱内側隆起を盛り上げるため大きめのc-flapを作成し押し込む。
  • 鼻孔底が陥没している場合は裂縁の余った組織を押し込む。
  • 鼻翼基部下三角が術後対称になっている。

 
 

■両側唇裂

両側唇裂手術法


前田法に準じた一期手術

手術時期は生後3〜4ヶ月頃

両側唇裂は片側唇裂に比べ治さなければならない部分が多く、相対的に手術の難易度も少々上がります。過去においては3ヶ月時に片側、6ヶ月時に反対側という風に片方ずつ手術していましたが、1997年以降は全例両側を一度に閉じています。その方が筋肉を真ん中でつなぎやすく(通常両側唇裂の中間唇部分には筋肉組織はありませんが、そこで両側からの筋肉を引っ張ってきてつなぎます)、また歯ぐきと唇の間の深みをしっかり作れるからです。
 

口蓋裂を含む症例では口蓋床を作り、哺乳を援助しつつ顎矯正も行っています。ただし中間顎が突出している症例では口蓋床だけでは中間顎があまり下がらないことが多く、上から押さえる矯正装置で押し下げてから手術することもあります。(中間顎はしっかり下がっている方が手術がはるかにやりやすくなり、術後の結果もよくなります。そのため押し下げるのに1,2ヶ月余分に時間がかかっても下がるのを待ってから手術を行います。両側唇裂では最初の手術で鼻の軟骨の矯正は行わないので生後3ヶ月で手術することよりも形状を整えることが優先されます。)手術直後は両サイドにあった外側唇を真ん中まで持ってくるので、一旦口唇幅が狭くなりますが、2〜4週間でかなりもどります。

両側唇裂手術法


(Cronin,T.D Ann.Plast.Surg.,1;75,1978.
から引用改変)
鼻翼が開大し鼻柱が平坦化した症例では放置しておくと鼻尖が押さえ込まれ鼻骨の成長が妨げられる。それを防ぐため鼻柱を延長する目的で3〜5歳頃に鼻柱延長術をCronin法に準じて施行

・前田法に準じた一期手術

・手術時期は生後3〜4ヶ月頃

両側唇裂では多くの症例で口唇形成手術後も鼻が平低化し広がり、鼻柱が短い状態になります。鼻柱の短い場合は放置しておくと鼻骨の成長抑制を引き起こしますのでこのまま大人になると非常に低い鼻となってしまいます。そういう症例では我々は3,4歳頃に鼻柱を高くし、小鼻をよせる手術を追加しています。

最近改良した手術法


c-flapが目立って、下垂気味だったのを改良

白唇を極力残すため赤唇を垂直に横断するラインを2oほど正中よりにした。

赤唇部分のボリュームをつけるため一番外側の部分は赤唇縁ではなく、white roleからのたちあげとした

正中唇は後日鼻修正することが予測されれば、最初は5〜6o幅ぐらいに

最近ではその手術を鼻柱の短い症例ではほぼルチーンで行っているため、逆に1回目の手術はそれを考慮して2回の手術で完成するように心がけています。
両側唇裂は片側唇裂に比べ術後の創が白い色に落ち着くのに時間が少々余分にかかります。

人中稜の高まりは片側唇裂よりさらに作るのは難しくなります。2回目の手術時に出来るよう現在我々は工夫をこらしています。
  
片側唇裂も両側唇裂も手術後はきずが綺麗になるようにテーピングしてもらったり、内服をしてもらったりしています。様子を見て相談しながら後日に修正することもあります(「口唇と鼻の二次修正」参照)。
 

二段階手術